細胞はどのように情報を伝達するのか?
細胞と細胞は情報を伝え合う必要があります。体内をめぐる情報網も、ミクロ的視点でみると細胞から細胞へ情報を伝え続けています。
細胞間の情報伝達は、直接的に伝える方法と間接的に伝える方法があります。
直接的に伝えるのは、ギャップ結合によってくっついている細胞間での情報伝達です。
ギャップ結合について詳しくはこちら
一方間接的に情報を伝えるということは、離れた細胞に遠隔で伝達するということです。
このとき植物や動物はホルモンと呼ばれる物質を送ることで、シグナル伝達を行います。
ホルモンを用いるシグナル伝達なので、内分泌型シグナル伝達とも呼ばれます。
ホルモンが情報を伝達する反応は、受容・変換・応答の3つの段階に分けて考えられます。
すなわち、
シグナル分子(ホルモン)が細胞膜にある受容体に結合することで細胞膜が認識し、
細胞内で他の分子を動かすことで情報を伝達し、
様々な細胞応答を起こすきっかけになる
という3段階です。
ホルモンのような、受容体に結合することで細胞外から細胞内へ情報を伝えるシグナル分子のことをリガンドといいます。
このページでは、変換について説明していきます!
受容についてはこちらのページで解説しています!
変換
細胞膜の受容体によってシグナル分子が受容された後は、その情報を、細胞応答を引き起こすタンパク質に伝えます。この経路を変換とし、どのように情報が伝達されていくのか見ていきます。
変換経路が存在するメリットは主に2つです。
1つめはシグナルを増幅できることです。これによって多くの分子にシグナルを伝えて、連動した応答などが可能になります。
2つめは情報伝達の制御を行いやすいということです。
変換経路は主に3種類あります。
リン酸化カスケードと、カルシウムイオン(Ca2+)による反応と、cAMPによる反応です。
リン酸化カスケード
カスケードというのは、数段からなる滝を意味します。
細胞内の情報伝達や細胞応答を制御するために、タンパク質のリン酸化と脱リン酸化によってシグナルが伝達されるプロセスです。
リン酸化は、リン酸基 (-PO4) をタンパク質に付加する反応のことです。この反応は、タンパク質キナーゼと呼ばれる酵素によって触媒されます。
反応によってできたものが次の反応の引き金になり、その反応でできたものがまた次の反応の引き金になり…というイメージです。
- 細胞膜にある受容体にシグナル分子が受容される
- 中継分子が活性化され、それによってタンパク質キナーゼが活性化される
- タンパク質キナーゼは、特定のアミノ酸残基(通常はセリン、スレオニン、またはチロシン)にリン酸基を転移する(=リン酸化する)能力を持っており、活性化されたキナーゼはリン酸基をATPから受け取り、別のタンパク質キナーゼにリン酸基を転移することでを活性化させる
- タンパク質ホスファターゼが活性化型のタンパク質キナーゼからリン酸基を外し、再び不活性型に戻すことで再利用が可能になる
- 3と4の過程が繰り返されることでリン酸化が次々と進み、シグナル伝達の情報が伝わっていく
- タンパク質キナーゼは特定のタンパク質を活性化させることで、細胞応答が始まる
cAMP(サイクリックAMP)
シグナル伝達を担っているのは上記のようなタンパク質だけではありません。
二次メッセンジャーとよばれるイオンなどの分子が関わっている場合もあります。
ここでは、二次メッセンジャーであるcAMPとカルシウムイオンについてみていきます。
- アドレナリンなどのシグナル分子がGタンパク質共役型受容体によって受容される
- 細胞膜にあるアデニル酸シクラーゼという酵素が活性化され、ATPがcAMPに変換される
- cAMP濃度が上昇し、タンパク質キナーゼAという酵素が活性化することで、細胞応答が始まる
Gタンパク質共役型受容体ってなんだっけ?と思った人はこちら!
この反応は、アドレナリンが継続的に受容されることが必要です。
なぜなら、cAMPはホスホジエステラーゼという酵素によってAMPに変換されてしまうからです。
カルシウムイオン
二次メッセンジャーとしてのカルシウムイオンによるシグナル伝達の経路をみていきます。
細胞内のカルシウムイオン濃度は、通常は非常に低いことがポイントです。
- シグナル分子がGタンパク質共役型受容体によって受容される
- ホスホリパーゼCが活性化され、ホスファチジルイノシトールビスリン酸という脂質をジアシルグリセロールとイノシトール三リン酸に分解する
- ジアシルグリセロールは他の経路の二次メッセンジャーとして使われ、イノシトール三リン酸は小胞体にあるカルシウムチャネルに結合する
- カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが細胞質内に広がる
- カルシウムイオン濃度が上昇し、タンパク質を活性化することで細胞応答が始まる
チャネルってなんだっけ?と思った人はこちら!
細胞内のカルシウムイオン濃度が通常は低いことで、微量のカルシウムイオンが放出されるだけでも濃度が相対的に大きく変化することになります。
シグナル伝達の終止
今までにみてきたシグナル伝達の経路では、経路が終止するように働くタンパク質がいくつかありました。例えばリン酸化カスケードにおけるタンパク質ホスファターゼや、cAMPをAMPに変換するホスホジエステラーゼなどです。
なぜわざわざシグナル伝達の経路を止める必要があるのか?
その目的は、分子を再利用することと、病原体などから体を守ることです。
前述のとおり活性化されたタンパク質が再び不活性型に戻ることで、そのタンパク質を再利用することが可能になります。
また、生体内において様々な反応が自動で継続されてしまうことは、時に身体を危険にさらすことになります。
例えば何かしらの病原体によって、通常よりも多くのリガンドが産生されて受容体に結合した場合、受容以降のプロセスがすべて異常数で進むことになります。
もし経路を終止させる機能がなかったならば、数が異常な状態はずっと続きます。
しかし反応が自動で終始する働きがあると、新たなリガンドがまた必要になるため、異常なリガンドによる影響はある程度にとどめることができます。
まとめ
- シグナル分子を受容したあと、増幅や制御などの過程を経て標的分子に伝達される
- それを伝えるのはリン酸化カスケード反応や、二次メッセンジャーの働きによる
- 二次メッセンジャーにはカルシウムイオンやcAMPがある
- シグナル伝達の経路を終止させるタンパク質があることで、分子が再利用できるとともに、異常に伝達が続くことを防ぐ
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