メンデル遺伝の法則

生物学

遺伝学の基礎中の基礎を築いたのが19世紀のオーストリアの修道士であるグレゴール・ヨハン・メンデルです。

彼はメンデル遺伝の法則という発見をし、遺伝学の進展に大きな貢献をしました。

そもそも遺伝学というのは、生物の形質(性質や特徴)が親世代から子世代にどのように引き継がれるのかについて明らかにするものです。ヒトの場合は目の形や疾患など、様々な形で遺伝的な形質が現れますが、メンデルはエンドウ豆を用いて実験を重ね、遺伝の法則を明らかにしました。

メンデルは主に4つの考察を行い、そこから独立の法則分離の法則などといった、現代でも支持されている遺伝学の基礎を築き上げました。
本記事では、遺伝学の基礎からメンデルの発見を詳しく解説していきます!

純系とP世代・F世代

メンデルはエンドウ豆を受粉させることで実験を行いましたが、メンデルは純系のエンドウ豆を使用しました。純系というのは、何世代も自家受粉を繰り返すことで親世代とまったく同じ形質をもつようになった株のことを言います。

メンデルはまずエンドウ豆の種子の色に注目しました。エンドウ豆の種子には黄色のものと、緑色のものがあります。
黄色の種子をつけるエンドウ豆と、緑色の種子をつけるエンドウ豆を用意し、それぞれで自家受粉を繰り返すことで純系の株を手に入れました。

次に黄色の種子をつける純系のエンドウ豆と、緑色の種子をつける純系のエンドウ豆を受粉させました(交雑)。
この時の親世代の株(純系の株)をP世代といい、交雑によって生じた子の株をF1世代といいます。
F1世代の株を自家受粉させるか、F1世代の株どうしで受粉させることで生じた第2世代の子をF2世代といいます。
つまりP世代から見ると、F2世代は孫にあたるということですね。

メンデルはP世代とF1世代とF2世代の形質を観察し、遺伝の法則を導き出しました。

混合仮説と粒子仮説

遺伝の様式として、混合仮説粒子仮説という2つの考え方があります。
この2つは対立する仮説で、19世紀初頭までは混合仮説が主流でした。しかしメンデルが粒子仮説を提唱し、現代では粒子仮説が主流になっています。

混合仮説

混合仮説は、親の形質が混ざり合って子の形質になるという考え方です。

例えば黄色の種子をつけるエンドウ豆と、緑色の種子をつけるエンドウ豆を受粉させたときの子は黄緑色になるということです。

混合仮説では、親の形質が遺伝子として具体的に存在するという概念は存在しませんでした。この理論では、形質は絵の具の色のように世代を重ねることに混ざっていくので、最終的には均一な形質になるということになります。

つまり植物や動物などの生物は、世代を重ねるごとに様々な部位が似てきたり、同じような性質を示すようになるということになります。

また混合仮説では、隔世遺伝を説明することができません。
隔世遺伝とは、世代を隔てて再び形質が現れることです。
例えば、祖父母の形質(目の形など)が子ではなく、孫に遺伝するケースです。

粒子仮説

粒子仮説とは、混合仮説に対してメンデルが提唱した説です。

粒子仮説では、形質は遺伝子と呼ばれる単位によってコードされ、それぞれの遺伝子は独立して伝達されると考えられます。
親から子への形質の伝達は、遺伝子が親から子へ直接引き継がれることによって行われます。
また、遺伝子は分離および組み合わせが可能であり、形質の多様性や再現性とつじつまが合うシステムです。

メンデルが行った実験

メンデルは先述のように、エンドウ豆を用いた実験を行いました。

まず黄色の種子をつけるエンドウ豆と、緑色の種子をつけるエンドウ豆を用意し、それぞれで自家受粉を繰り返すことで純系の株を手に入れました。

この純系の株をP世代とし、これらを掛け合わせてF1世代を作りました。
このときF1世代のエンドウ豆の種子はすべて黄色になりました。

次にメンデルは、F1世代どうしを掛け合わせてF2世代を作りました。
このときF2世代の種子は黄色のものと緑色のものがありました。
メンデルは1万個ほどの種子を調べて、黄色:緑色=3:1の割合になることが分かりました。

メンデルは同様の実験を、ほかの形質についても行いました。

エンドウ豆の花の色に注目すると、紫色の花をつけるエンドウ豆と白色の花をつけるエンドウ豆を用意し、これをP世代としてF1世代とF2世代を作りました。
その結果は、F1世代がすべて紫色、F2世代は紫色:白色=3:1になりました。

ほかにも種子の形(丸形とシワ型)、さやの形など様々な形質で調べましたが、すべて同様の結果となりました。

この結果から、メンデルは以下の考察を見出しました。

その1:遺伝子が遺伝を引き起こす

これは前述の粒子仮説の内容そのものです。

遺伝子という遺伝を伝える物質(粒子)が存在し、エンドウ豆の形質(種子の色など)が遺伝したのは持っている遺伝子が異なるためだということです。

またその遺伝形式について、両方の親から1つずつの遺伝子のコピーを受け継ぐということも発見しました。

その2:形質には優性と劣性がある

ある形質について、異なる形質の遺伝子を両方持っている場合は、優性遺伝子の形質が優先されるということです。

例えば先述の実験においては、メンデルは黄色の種子をつける純系株と緑色の種子をつける純系株をP世代とし、これらを掛け合わせてF1世代を作りました。
このときF1世代のエンドウ豆の種子はすべて黄色になりました。

F1世代は黄色の種子をコードする遺伝子と緑色の種子をコードする遺伝子を両方持ちます(その1の内容)。
両方の遺伝子を持っているにもかかわらず、すべての種子は黄色になりました。

これは黄色の種子をコードする遺伝子が優性遺伝子で、緑色の種子をコードする遺伝子が劣性遺伝子であったためと考えました。

通常は優性遺伝子は大文字のアルファベット、劣性遺伝子は小文字のアルファベットで表します。
例えば黄色の種子をコードする優性遺伝子をYで表すとき、緑色の種子をコードする劣性遺伝子をyで表します。

この優性と劣性という表現は、優劣があるという意味ではありません。そのため最近では優性ではなく顕性、劣性ではなく潜性と表記されることも多いです。

つまり表に出る性質か、表には出ない性質か、ということですね。

その3:分離の法則

分離の法則とは、配偶子が作られるときに、2つの親由来の遺伝子が分離してそれぞれの配偶子に分配されるということです。

つまりある形質について注目すると、1対の対立遺伝子によって形質はコードされていて、その遺伝子は1つが父親由来でもう1つが母親由来ということです。

対立遺伝子とは、ある形質について異なる型の遺伝子のことです。
例えば黄色の種子をコードする遺伝子と、緑色の種子をコードする遺伝子は互いに対立遺伝子となります。

その4:独立の法則

独立の法則とは、一対の形質について、親から子への伝達は独立して行われるということです。

メンデルは、異なる形質が組み合わさった場合でも、それぞれの形質の遺伝は独立して行われることを示しました。
例えば、黄色い種子と滑らかな種子の形質が組み合わさった親から子への伝達では、黄色い種子の形質と滑らかな種子の形質は独立に伝達される(2つの対立遺伝子が相互的に作用することはない)という法則です。

ホモ接合とヘテロ接合

遺伝子は対立遺伝子を1対(1ペア)もちます。これは片方が父親由来で、もう片方が母親由来であるためです(考察その3)。

対立遺伝子が同じ場合をホモ接合といい、異なる場合をヘテロ接合といいます。

例えばP世代のエンドウ豆はどちらも純系の株ですから、黄色の種子の優性対立遺伝子が「YY」であり、緑色の種子の劣性対立遺伝子は「yy」となります。

パネットスクエア(分離の法則)

メンデルの実験結果

前述のように、メンデルは黄色の種子をつけるエンドウ豆と、緑色の種子をつけるエンドウ豆(P世代)を用意し、実験を行いました。

このときF1世代のエンドウ豆の種子はすべて黄色になりました。

次にメンデルは、F1世代どうしを掛け合わせてF2世代を作りました。
このときF2世代の種子は黄色:緑色=3:1の割合になることが分かりました。

なぜこのような結果になったのでしょうか。

F1世代の結果から、黄色の種子をコードする遺伝子が優性対立遺伝子であり、緑色の種子をコードする遺伝子が劣性対立遺伝子であるということが分かりました。

通常は優性遺伝子は大文字のアルファベット、劣性遺伝子は小文字のアルファベットで表します。
例えば黄色の種子をコードする優性遺伝子をYで表すとき、緑色の種子をコードする劣性遺伝子をyで表します。

P世代は純系のため、黄色の種子の優性対立遺伝子が「YY」であり、緑色の種子の劣性対立遺伝子は「yy」となります。

そのためF1世代の対立遺伝子は必ず「Yy」になります。

では、F2世代の結果はなぜ3:1になったのでしょうか。

これはパネットスクエアを用いると説明がつきます。

F1世代どうしの掛け合わせのため、父親由来の配偶子も母親由来の配偶子もどちらも「Yy」になります。

「Yy」どうしを掛け合わせると、上のパネットスクエアのように「YY」、「Yy」×2、「yy」の対立遺伝子をもつF2世代ができます。

「YY」遺伝子は優性遺伝子のホモ接合のため、種子の色は黄色になります。
「Yy」遺伝子は優性遺伝子と劣性遺伝子のヘテロ接合のため、種子の色は優性遺伝子が表現型(実際に現れる形質のこと)となって黄色になります。
「yy」遺伝子は劣性遺伝子のホモ接合のため、種子の色は緑色になります。

そのため、優性:劣性=3:1になったのですね。

まとめ

まとめ
  • メンデルはエンドウ豆を用いた実験を行い、遺伝子によって形質が遺伝されることや優性・劣性遺伝子の存在を発見した
  • 分離の法則は、配偶子が作られるときに2つの親由来の遺伝子が分離してそれぞれの配偶子に分配されるという法則であり、パネットスクエアを用いて説明することができる
  • 遺伝子は1ペアの対立遺伝子からなるが、同じ場合をホモ接合といい、異なる場合をヘテロ接合という

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